Tolie.




泣き崩れるお母さんを
看護婦さんが必死に支えて
部屋から出ようと足を進めると
お母さんがお父さんに向かって
手を伸ばした。




「 嘘よ・・・っ 」




どれだけ体を揺すっても
名前を呼んでも
お父さんは目を開けなくて
力なく下ろされた手が
”現実”を物語っているようで
私は俯いて、唇を強く噛んだ。




「 芹沢さん 」




看護婦さんも顔を歪ませて
泣くのを堪えているようだった。
うまく歩けないお母さんを支えながら
慰めの言葉を投げかけるけど
お母さんは俯いたまま




「 どうして、あの人なんですか 」




力のない、か細い声だった。
力になりたいと全身で語る人に
お母さんは、それだけ言って
病院から出て行った。







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