短編集
急に前髪によって隠され、狭くなっていたはずの視野が広がり、紗那の顔をはっきりと映し出した。
紗那が俺の前髪をかきあげたのだ。
「ちょ!やめろ!」
「えーイイじゃんかっこいいんだからさー」
「そういう問題じゃねぇ!」
紗那は何でも大げさに言うからな。
「えー顔出せばモテモテだよ?」
「モテるわけねーだろ。俺みたいな奴が」
「ホント自覚しないなぁ。ま、私は好きだよ」
「へいへいどういたしましてー」
「あー!棒読みとかひっどー!わりと本気なのにぃ」
とぷくぅっと小さな風船のように両ほっぺが膨らみ、いじける。
何回も言われているから馴れてしまった。
しかし、いっこうに膨らんだままのほっぺが直らないので、指で両方の小さな風船をはさんで押した。
「ぷすぅ」
二つの風船から空気が抜けて情けない音が紗那の口からなった。あまりにも普通に音が鳴ったからつい俺は吹き出してしまった。そうすると紗那はたちまち嬉しそうな笑顔を見せ、
「今日やっと笑ってくれたね」
「というか、まず今日お前と話して無くね?」
「だってお義兄ちゃん珍しく早起きしたと思ったら家にすらいなかったじゃん」
「ここで寝たかったからな」
「私たちは今日の休日お義兄ちゃんと一緒に遊び行きたかったんだよ!」
「は?」