大人的恋愛事情
一部上場企業の自社ビルは、真ん中が大きく吹き抜けになっていて、その周りを囲むようにそれぞれの部署が点在する。
さすがにこれで見逃してもらえるとは思わないけれど、これ以上聞かれてもたいした話もない。
あの後ホテルを出て、家までタクシーで送ってくれた藤井祥悟は、去り際に笑顔を見せた。
「俺、本気だから」
確かそんなことを言っていたような……。
また重い溜息が出そうになり、慌てて意識を仕事に向けた。
総務の扉を押して開けながら、29歳独身男の本気が何なのか考えていた。