大人的恋愛事情
「名刺預けたんだけど、まずかったか?」
「そうですね。社内で変な噂になりたくないので、ああいうのはやめてもらえます?」
わざと敬語口調で返しながら、足を止めずに駅へと向かう。
そんな私の隣で少し距離を空けて歩く藤井祥悟が、苦笑いするように微かに笑う。
「変な噂って……、これからどこかに?」
そう聞きながら、私を通り越し反対隣を歩く詩織に視線を向ける。
「企画部の藤井です。佐野さんと同じ総務だよね? 荒川さんだったかな……」
「そうです繭とは同期なんです。よろしく」
「よろしく」
なにがよろしくなのか……。