大人的恋愛事情
 
「名刺預けたんだけど、まずかったか?」



「そうですね。社内で変な噂になりたくないので、ああいうのはやめてもらえます?」



わざと敬語口調で返しながら、足を止めずに駅へと向かう。



そんな私の隣で少し距離を空けて歩く藤井祥悟が、苦笑いするように微かに笑う。



「変な噂って……、これからどこかに?」



そう聞きながら、私を通り越し反対隣を歩く詩織に視線を向ける。



「企画部の藤井です。佐野さんと同じ総務だよね? 荒川さんだったかな……」



「そうです繭とは同期なんです。よろしく」



「よろしく」



なにがよろしくなのか……。
< 35 / 630 >

この作品をシェア

pagetop