大人的恋愛事情
『ああ。今、会社出た』
そう言われてふと時計を見ると、時間は夜の8時10分。
「いつもこれくらいなの?」
『そうだな。別にたいした仕事してねえけど、なんとなく帰る雰囲気じゃねえんだよ』
まあ、それはわからなくもない。
それぞれの課によって雰囲気がまったく違うのは、大企業特有のことなのかもしれない。
『悪いな……』
そんな言葉に首を傾げる。
「なにが?」
『いや、電話なんかして』
いつもはストレートで強引な男が、遠慮気味に呟く言葉に思わず笑う。