大人的恋愛事情
「部長が戻って来る前に先に出てろよ」
俺がそう言うと、わかったと言うように、迷いなく何事もないかのように席を立った。
一瞬後に、隣で別の人間と話している同僚に声を掛ける。
「悪い、帰るわ」
「もう?」
「プレゼンの資料、やっぱ気になって……。家帰ってもう一度、目通す」
適当な嘘を吐き、席を立つと同僚が笑った。
「なんだ? 負け知らずの藤井にしては随分弱気なんだな。資料なんかよりお前の説得力あるプレゼンでカバーできるだろ」
そう言われて、確かに弱気だと思えた。
本当に繭が俺と飲みに行く気なのかどうなのか……。
適当に挨拶して、店の出入り口まで行くと、コートを手に持つ繭が立っていた。
飲みに行く気はあるらしい……。