大人的恋愛事情
 
「ちょっとっ! 行かないって言って……」



「ねえ、繭」



藤井祥悟に断ろうと思っているのに、呼びかけられ仕方なく詩織に視線を向ける。



その隙に藤井祥悟がカフェを出て行った。



「なによ」



溜息をつきながらそう聞き返した私に、入社以来ずっと仲の良い詩織が少し困った顔を見せた。



「もう忘れたら?」



「忘れてるわよ」



「そのわりには随分ガード固くない?」



「え? なんの話しですか?」



意味がわからない美貴ちゃんが、不思議そうに首を傾げるのを無視してカツサンドを食べる私は、思い出したくない男を思い出しまた溜息が出た。
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