crocus

それからの流れは見事な速さだった。自室のベッドに座らされ、ヘッドフォンよーし!カーテンよーし!なんて言葉が聞こえてきそうなほど一生懸命な若葉。

雷から守ってくれているんだなぁと分かるけれど、その姿に敵わないなぁと思うと笑ってしまった。

が、声に出してしまったことに背中がぞわっとした。耳に届かず、顔の中で骨を通して響く音はやはり気持ちが悪い。

そして若葉に変な声で聞こえてしまったのではないかと思うと、ドクドクと鼓動が早まる。

立ったままの若葉を見上げれば不思議そうな心配そうな2個の瞳はこちらを見ていた。

今の心境を正直に携帯の文章で伝えれば、若葉はニコニコと笑いながら返事を返してくれた。

携帯に映し出された規則正しい無機質なフォントなのに、紡がれたその言葉のバックライトが余計に眩しく見えて文字が浮かんでいるように見えた。

『無理して声を出さなくていいですからね?』

欲しかった言葉をもらえて、何故だか頑丈な箱に詰めていた記憶が魔法にかかったように自然と開かれた。


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