crocus

顔を上げた若葉は何かをぐっと堪えた表情をしていて胸が締め付けられた。

さっと目の前に差し出された携帯の画面を読めば、無性に堪らない気持ちになって若葉の頭をポンポンと叩いた。

すると緊張の糸が切れたのか目からハラハラと零れる涙が頬をなぞった。

知らなくてごめんなさいじゃねぇよ。言ってねぇんだから当たり前だろ?

俺、何も頑張ってねぇよ。謝ることで頭いっぱいでヘッドフォンの存在忘れてたっつーの。

声を出すことはまだ躊躇いがあって、違うよ、そうじゃないよ、とも伝えてやれない。そんなもどかしい思いが、痺れに変わって身体中を駆け巡った。

気がつけば、抱きしめていた。

力を入れれば簡単に折れてしまいそうな小さくて柔らかい体、髪からはふんわりといい匂いがする。そのことがザワザワした胸を落ち着かせてくれた。

また若葉が子供をあやすようにゆったりしたリズムで背中を叩きだせば、現実に戻った。今の状態を確認すれば、赤面せずにはいられなかった。

なんとフォローしようとか、いつ離れるのが自然かなとか、あー……やっぱ柔らけぇとか、グルグル思考を巡らせていれば、肩にどーんと力が与えられて2人の体は離れた。

出来た隙間に通る風が火照った頬を掠めて冷やす。ちょっと名残惜しい気持ちを隠しながら若葉を見れば、ものすごく焦っていた。


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