crocus
「バーカ!落ち込むことねぇだろ?本当なら、いつもは半日くらい治らねぇんだよ、この耳。それが1時間もしねぇ内に戻ったんだぜ?…お前がいてくれたから、…だろ?」
「私にそんな力…」
「さすが、オーナーが見つけた活性剤!そんなお前の声、聴いてたいんだよね。だめか?」
声が聴きたいなんて直球で言われることは初めての若葉。
顔が少し赤くなりながらも、しゅんとする琢磨くんの言葉を勢いよく否定した。
「そ、そんな!私でよかったら!あー…あっ!それじゃあ、クロッカスのメニューの名前と値段を言うのでテストしてくださいませんか?」
同じカウンター業務だったことを思い出して、時間があれば復習していた成果を発揮出来るチャンスだと思った。
早く琢磨くんの仕事を手伝える一人前の店員になりたかった。…もちろん一番の夢は花屋だけれど、接客技術を身につけるのは重要なこと。
商品名も値段も言える記憶力は、どこに勤めたって身につけていて損はないはず。
「分かった。いいよ。じゃあ、思い付いたメニューからどんどん言ってみ?」
「はい!いきます!えと…、カボチャ大王のグラタン…720円」
「ピンポーン!」
「グラムおばさんのムサカが850円…?」
「おっ、正解」
「えっと…ワルキューレ大佐ハンバーグプレート…880円」
「っだぁ…おしい!ランチプレートもの全部780円な」
「そか…はい!あっ、ピクシーのいたずらサンドは、600円でしたよね?」
「そ、ピンポンピンポーン」
ベッドに2人深く腰かけて、背中は壁に任せた状態でゆっくり流れる時間の中、部屋にメニュークイズのキャッチボールが続いた。
…が、それも一時のこと。次第に琢磨くんの正否判定焦らしが混じってきた。
というのはただの誤解であって、その焦らしの意味が分かったのは、隣から寝息が聞こえたときだった。