crocus
一口啜ると、通りすぎる液体が喉をジンと温めて、濃厚なコーヒーの後味がふわっと鼻から抜けた。
「ほら…使え」
少し呆れたようにじいさんが、ぺいっと箱ごとティッシュをカウンターテーブルに投げ置いた。
「…え?……あれ?なんだこれ」
意味が分からなくてじいさんを見上げていたけれど、頬がむず痒くて触ってみれば、手が濡れた。
泣いていた。
勝手に目から涙がこぼれるなんて初めてだったし、人前で流したのも初めてだ。
止めようと思っても壊れた涙腺は、窓に張り付いた雨の雫のように、いつまでも滴り落ちた。
今まで見て見ぬふりをしてきた胸中で、渦巻く後悔や悲しみや、恐怖の嵐は、たった一口のコーヒーの力を借りて簡単に心の堤防を決壊させた。
ついに涙が枯れ果てた頃、体が心が空っぽになって、自然に笑っている恭平がいた。