crocus

新谷さんは八重歯を覗かせると、人懐っこい笑顔で言葉を続けた。

「下の名前で呼んでよ。それから、あの5人の中だと俺が一番、若葉と歳が近いし敬語じゃなくていいからな。俺、敬語使われるのってどうも苦手でさ~。……あれ?待てよ?恵介も俺と同じ歳だっけ?まぁ……いいか」

表情をコロコロ変える新谷さんはなんだか可愛い。若葉は言われた通り、言葉遣いを柔らかくした。

「じゃあ……たく、まくん?」

「いいね。若葉」

「せ い ご」

「きゃっ!」

「うをっ!」

上矢さんが突然現れ、突発的に声を張ってしまった。

2人の間に割り込んだ上矢さんは渋い顔をして耳を塞いでいる。

「へぇ~。琢磨ったら、もう若葉ちゃんを呼び捨てる仲になれたんだねー?あらら。顔、真っ赤だねー?かわいいねー?」

上矢さんは「ねー?」と言う度に、左右交互に大きく体を倒し、俯く琢磨くんの顔を無邪気に覗きこむ。

口を尖らせぶつぶつと何か呟いていた琢磨くんは、上矢さんを徹底無視し、キリっと若葉を見た。

「とにかく!今週は俺の食事当番だったんだ。だから1回分、楽が出来て助かったよ。ありがとな、若葉!」

ニシシッと笑う琢磨くんを見て、若葉も心から嬉しくなった。

そうこうやり取りしていると、残る3人の店員さんもぞろぞろとリビングに集まってきた。

一瞬、昨夜のような不穏な空気も漂ったが、恩返しで若葉が朝食を作ったのだと、琢磨くんが説明し、空気を和ませてくれた。

若葉は全員が席についたのを見届けると、リビングを出て2階の上矢さんの部屋に向かった。


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