crocus

「恭平さん?…わたし、ごめんなさい、つい…調子に乗って…」

「…いや、マジで、どうもしねぇからさ。気にしないでよ」

心配そうな声だけれど、泣いてる顔なんて見せられなくて、すぐには振り返れない。

でも、そんな時に限って…。

パッと蛍光灯の眩しい光が部屋を照らした瞬間、瞳孔が急激に小さく閉じていくことが、神経にビリビリくるほどよく分かる。数回、瞬きを繰り返して瞳を慣らした。

「よかった…復旧しましたね、恭平さん」

「…あ、あぁ!うん、そうだな!よかった、よかった。…あーのさ…そこにあるティッシュとってもらえない、かな?」

若葉ちゃんの座っている位置から、真後ろの棚に置いていたので、自分で取るとなると、どうしても顔を晒すはめになってしまう。

「あ、はい!…これですね、…はい、どうぅぅぅ…きゃっ!」

背中を向けたまま、左手の手のひらを左肩の上に待機させていたのだが、触れたのはティッシュペーパーではなくて、柔らかい手。

「…え?うわっ、っと!」

それに手を捕まれると、不意を突かれて加わる力の方向へ倒れてしまった。

「あいたっ!」

ベッドに振動が伝わるほどフローリングに激しく当たった痛そうな音。その後すぐに聞こえた、若葉ちゃんの声。

< 200 / 499 >

この作品をシェア

pagetop