crocus


「だ、大丈夫?」

咄嗟に左腕を伸ばし、指の力でフローリングを押して体を支えた恭平は、なんとかベッドの上。

しかし若葉ちゃんはベッドから落ちていた。恭平を支えている左手の上に髪が乗り、ベッドに沿って仰向けに転がっていた。

「あはは、足が痺れちゃって…立ち上がったら、よろけちゃいました。すみません…」

恭平と若葉ちゃんは、顔の距離は離れているけれど、見つめ合っている不思議な光景。

間が持たずに逸らした視線の先に映った若葉ちゃんの左鎖骨を見ると、本当にうっすらと薄茶色の痣が残っている程度になっていて安心した。

無意識の内に、その鎖骨付近の痣に手を伸ばして触れてしまった瞬間、またもや、またもや、こんな時に限って開いてしまった部屋の扉。

「ごめんね、恭平、若葉ちゃん!僕たち銭湯行ってて、帰ってくるの遅くなっちゃった!停電、大じょぉぉ…オーナー!恭平が、恭平が!」

「ちょいちょいちょーい!!!」

…この日の夜は電気を消して寝たいと思う程に、夜這いしないかと監視の目がギラついていた。

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