crocus

「若葉ちゃ~ん、お腹空いちゃったよ~!」

ある日のお昼。誠吾くんが、半べそでリビングに飛び込んできた。

「お昼出来てますよ?今日はもう、一段落着いたんですか?」

「うん、がんばったよぉ!ボクは、パティシエだからおやつの時間も忙しいけどー……」

「そうですね……。ほとんどの常連さんが恭平さんのコーヒーと一緒に、誠吾くんのデザートご注文されますもんね?」

話をしながら、「いひひー」と嬉しそうに笑う誠吾くんのテーブルの前にお昼ごはんの親子丼を置いた。

「わぁ~、おいしそう!こんな身近で家庭料理が食べれるのも、若葉ちゃんのおかげだねー。ありがとー!ってことで……いっただっきまーすっ」

誠吾くんは親子丼を口に運ぶと目をギュっと閉じて、バタバタバタッと両足をバタつかせた。唇は閉じたまま「むんひー!」と天井に向けて雄たけびを上げる。

無邪気に喜んでくれる姿を見ていると、自然と頬が緩む。お母さんになった気分だ。

「ここの片付けが終わったら、店内に戻りますね」

「ええーっ!まだいいじゃーん!ボクと一緒に食べようよー、寂しいよー、味気ないよー」

不満を漏らす誠吾くんは椅子から体をズルズルとテーブル下へ沈めていき、ブーっと膨れっ面になった。


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