crocus

「…そう、優しいね。若葉ちゃん」

小屋の壁に寄りかかって、タバコを一本取り出したちえりさんは、銀色のジッポでシュボっと火をつけた。

「…3人をわざと会わせたの。門倉兄弟を呼んだのも、ついさっき。近場に住んでるのよ」

突然明かされた事情。この口調では、誠吾くん達の関係を知っているように思える。

「ご存知だったんですね」

「うん、って言ってもね…双子達から聞いたのは、昨日なの。その時に出てきたショートケーキの男の子の名前が、誠吾だったときは衝撃だったな。知り合いだって気づかれないように必死でポーカーフェイスよ」

思い出したように、ふふっと笑ったちえりさんの口から、薄く煙が出た。一呼吸分の沈黙の後に、ちえりさんは落ち着いた声で言う。

「それで昨日の夜に、誠吾に電話したの。まぁ…こうなることは想定内だったけど、若葉ちゃんにとばっちりがいっちゃったよね?全部私のせい。…ごめんね」

でもね…、と続けたちえりさんは柔らかい表情をして、若葉の頭を撫でた。

「若葉ちゃんに今日初めて会って、決心がついたの。双子と会わせても大丈夫だって。この子なら誠吾を無条件で支えてくれるって思ったの」

「…ごめんなさい。結局は…」

だんだんと理解出来てきた流れ。自分の存在がきっかけだったと言われても、そんな自分のせいで、かき回してしまった。

< 257 / 499 >

この作品をシェア

pagetop