crocus


その容赦ない言葉を受けて、椅子が倒れるほど勢いよく立ち上がったのは琢磨だ。要の胸ぐらを掴み食って掛かる。

「お前、本気で言ってんのかよ!一緒に過ごしたのは2ヶ月だけどさっ……、若葉がこんなことするのは、よっぽどの事情があったことくらい分かんだろ!?」

シャツを引っ張られているものの、要は表情1つ変えることなく息を巻く琢磨をジッと見下ろしている。

「勝手に出ていった以上、何を考えているかなんて興味ない。いきなり姿を消すかもしれないと常に疑い、信用を一ミリも置かないのが俺だ。謂わば、彼女の行動は想定内の範疇。感情的になれなくてすまないな、琢磨」

琢磨は更にクゥッと牙を剥き出したが、琢磨の腕を掴み要から引き剥がしたのは恭平だ。

「要は未だに俺らの誰一人として信頼してねぇのな。まぁ、それが桐谷要だもんな……しょうがねぇよ」

カウンターに片腕を乗せて、下から要を抉るように鋭く睨む恭平の横顔は、恵介から見れば、信頼してないと言われてただ拗ねているようにしか見えない。

別に場を治めようと意図した訳ではないが、後になって責められるのは面倒ということもあり、恭平が可愛かったので、事の真相を簡単に告げた。

「首を突っ込みたいなら、出家でもすれば?……って僕が言ったからかも」

「はぁっ!?」

三馬鹿の声が被り、要の耳も僅かに動いた。なんだやっぱり要も気になるんじゃない。



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