crocus
「真剣勝負の試合で、卑怯な脅しかけてんじゃねーよ!あんたには到底理解できねぇだろけど…俺も、哲平も…本気でライバルとしてレギュラー争いしてたんだよ!社長の息子を優勝させたいからなんて、しょもねー理由で、水を差してんじゃねーよ!…哲平に謝れよ!こいつがどんな思いで今まで…!」
鮫島さんはうすら笑いを浮かべながら、怒りに任せて捲くし立てる恭平の目の前に手の平を出し、制止しさせた。
「例えそうだとしても…僕は何もしていない。実行したのは…君が本気でぶつかっていたはずの、そこのライバルくんだよ?まず…その前に君のそういう熱っくるしいところが余計、彼を追い詰めて苦しめてたとは思わない?」
「…んだとっ!?」
鮫島さんの挑発に、目を見開いた恭平は素早く拳を振りかざした。誠吾や若葉ちゃんが、その後の展開を予想し思わず片目を瞑るも、恭平が突き出した拳を、かなめんが寸でのところで手の平で受け止めた。
「…落ち着け。ばか。話をすり返られてるぞ」
かなめんが呆れたように諭すと、恭平は、腕を力なく下ろしやっと冷静さを取り戻してくれたようだ。
きっと殴っていれば、鮫島さんは本当に出るところに出る人だと、初対面のこの十数分で嫌でも分かった。
しばしの緊迫した沈黙が流れるも、それを破ったのは背後で扉が開く音だった。一斉にそちらの方を見ると、扉から顔だけ出して覗いている髪の長い女性いた。
その人はきょとんとしながら、辺りを目線だけ動かして見渡してから、恐る恐る鮫島さんに向かって言葉をかけた。
「豊さん…どうかされましたか?…廊下まで声が響いてたので、心配になって…」
問いかけた女性の瞳は心配の色の他に、怯えも含まれている気がする。それはこの騒ぎのせいか、それとも鮫島さん本人に対するものなのか…。
「お前には関係ない…、下がっていなさい」
この女性には見られたくなかった光景だったのだろうか。ここに来て初めて、鮫島さんが語気を弱めてうろたえた。