crocus
誠吾くんに許しをもらえた健太さんだけれど、まだ表情は堅いままだ。それは、これからがきっと本題で一番の辛いところだろうから。
「…最後に、琢磨。僕がいなくなる前のことだけど…」
「その前にさ、若葉が教えてくれたんだけど…お前…もみじの花言葉知ってるか?」
「え?うん…。『思い出を忘れない』だよ。だから…石もマキオも小学校のもみじの木に置いたんだ」
健太さんの言葉を聞いた、琢磨くんの表情はみるみる内に輝きだした。
「ははっ!若葉すげーよ!やっぱり健太は知ってた!若葉の言ってた通りだ!」
なぞなぞが解けた子供のように無邪気に喜ぶ琢磨くん。でも若葉は素直に同調出来なかった。
これからきっと健太さんは、双方が傷つくような何かを告白しようとしているはずだから。
「琢磨、俺…」
「じゃあさ、石に書いてた『タクマタウン』って…あの街で、俺のことが一番の思い出ってメッセージだったりすんの?」
「よ、よく分かったねっ……、絶対に分かんないと思ってたんだけどな…」
健太さんは語尾を弱くして、一気に顔を真っ赤にした。確かに、友達に好きだと告白しているのも同然だからだろう。琢磨くんは、また予想が当たったと、興奮している。
「そうじゃなくてさ…琢磨…」
「っせぇぞ!!健太!…俺らはやっぱり親友!…以上!」
両手に腰を当てて、言い切った琢磨くん。そんな琢磨を見て、健太さんは片手で額に手を置いた。
「…あの時と、同じ、こと言ってくれる…っ、だね。凄いや…」
言葉を詰まらせる健太さん。隠しきれていない頬から、一滴の涙が流れた。
「鮫島のおっさん!どうせあんたが、今までみたいに弱味に漬け込んで、脅したんだろ?実の息子を!!…だしに使ったのは、なんだよ?父ちゃんの魚屋か?母ちゃんのパート先か?」