crocus

「もしもし…、私だ。今すぐ警備をふや──」

窓の外に気を取られている内に、鮫島さんは外部の人に電話で連絡を入れようとしていた。けれど、それを止めたのは、菜緒子先生だ。

「もう、やめましょう?豊さん…。これ以上誰かを傷つけたって、悠一さんも、千春さんも悲しむだけよ…」

先生の口から出た、2人の名前は若葉の両親の名前だった。

「父と母を…鮫島さんはご存じなんですか?」

おそるおそる若葉が尋ねると、鮫島さんは、未だなお厳しい目で若葉を捕らえる。だけど、若葉自身ではなく、もっとその向こうの影を見ている、そんな遠い目をしている。

「鮫島さんは、悠一さんと千春さんの幼馴染みなのよ。そして、私は悠一さんと、千春さんに救われてるのよ?縁って本当に不思議なものよね…」

「えっ、オーナーさんも私の両親をご存じだったんですか?」

「黙っててごめんなさいね?全てを話すのは、クロッカスのこの子達が、健太くんが過去を乗り越えた時に話すべきだと思ったの。きっと…悠一さんもそう望んでいたはずだから」

オーナーさんが両親の名前を親しげに呼んでいることが、すごく不思議なのに、どこか妙に納得する部分もあった。

初めから優しくしてくれたこと、クロッカスの花の話をすると悲しい表情をすること、まるで妹のように可愛がってくれたこと。

全てがそこに繋がっていたんだ。オーナーさんとの出会いは、お父さんとお母さんが引き合わせてくれたものだった。


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