crocus

未久さんがおもむろに、その掲げた機械のボタンを押した。するとその機械から聞こえてきたのは、この第1秘書室内での先程の会話だった。

"──揺さぶりをかけたんだ"

"──社長に取り入るために"

健太さんの声や、鮫島さんの声で語られる、鮫島さんが行ってきた所業の数々。

鮫島さんは大人しくその会話に耳を澄ませているだけだ。未久さんは、録音機器の停止ボタンを押しすと、しっかりとした口調で取り引きを始めた。

「この会話を週刊誌に公表されたくなければ、大型複合施設の建設の計画を即刻取り下げてください。あのカフェは、あの商店街は生きてます!!窓の外を見るといいわ…」

未久さんの言葉に、琢磨くんや誠吾くん達がいち速く窓に走った。

「すげぇ…、もうすぐ23時だって言うのに…、商店街のみんながいる!!」

若葉も窓に駆け寄ると、『建設反対!』『商店街を壊さないで』というプラカードを持った商店街で店を開く顔馴染みのおじさんや、おばさん達が駐車場に集まっていた。

「ははっ!靴屋のおじさん顔真っ赤だよ?」

「あぁ、あの照れ屋のおっさんがシラフじゃ、こんなとこ来れねぇよな」

1人1人はすごくすごく小さいけれど、みんなが集まれば不思議と誰が誰なのかハッキリ分かる。

「…新名さんが商店街のみんなに掛け合ったのよ。だから、知り合いに頼んでバスを借りちゃった!」

新名さんは、仕事の顔を崩さないまま誇らしげに爽やかに頷いた。

それにしても、女子大生を20人知っていたり、バスをも借りれるなんて、オーナーさんの底知れない人脈にも驚きだ。


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