crocus
「てゆーかさぁ!どうして僕が後部座席に1人なのさぁ!真ん中のシートに3人っておかしいよねぇ!?僕も若葉ちゃんの隣がいいのにーっ!」
後ろでバタバタバタと地団駄する誠吾くんは、真夜中でもすごく元気だ。今さら移動できない若葉が苦笑いしながら、誠吾くんをなだめていると助手席に座る桐谷さんが話し始めた。
「それにしても、大型複合施設の計画が破棄になってよかったな」
「へへっ、要がそう言うこというの変な感じだな。すげぇくすぐったい。まぁ、なんだかんだ言ってもクロッカス愛が一番強いの要だもんなぁ」
「…うるさい。運転してろ」
ちょうど若葉の位置から見える琢磨くんは、吐き捨てた桐谷さんに向かってべーっと舌出していたものの表情は晴れやかだった。
鮫島さんはあの後すぐに計画の中止を告げ、健太さんと一緒に外で抗議していた商店街のみなさんの元へと謝罪と説明をしに向かった。
「また若葉は大島グループに行くんだろ?俺もついてこっか?」
恭平さんがこちらを見ながら提案してくれた。後ろでは「僕も、僕も」と誠吾くんが飛び跳ねながら挙手している。
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。オーナーさんがついて来てくれるそうなので」
「ちぇっ、カマオーナーぬかりねーの」
恭平さんはおもしろくなさそうに両手を後頭部に回して、足を組んだ。
また話をしたいと提案したのは若葉からだった。両親のことを8年間しかしらない若葉は、鮫島さんが知っている2人のことを教えてもらい共有したかった。
そして、健太さんの記憶が自分の中にあった理由も尋ねたかったからだ。
「あのさ……恵介の母ちゃんを送り届けたら、オーナーはクロッカスにちゃんと帰ってくるよ、な?」
遠慮がちに呟いた琢磨くんの問いかけに、少しの間沈黙が流れた。
「どうかな」
答えにつまる全員の代わりに、なんの色も含まない返答をしたのは橘さんだ。関心がないわけではなく、発言した琢磨くんに気負いさせないための優しさだ。
オーナーさんは10年前の出来事に関連していた琢磨くん達のことを知って、偶然同じ高校だった5人を教育実習生になってまでクロッカスへと誘った。
事情を話していればきっと今のクロッカスは存在していないだろう。
ずっと真実を隠されていたこと、いや、時が来るまで話せなかったことを、今の5人がどう思っているかなんて若葉には計り知れなかった。