crocus

「……」

話を聞き終えたお爺様が黙って、どれくらい経っただろうか。
反芻しているのか、感情を煮えたぎらせているのか、とても予測がつかない。ただただお爺様が口を開いてくれるのを、待つしか出来ない。

若葉は逃すまいと聞き耳を立て、呼吸すらも極限まで我慢した。

「……そうか」

それだけだった。
お爺様の声は怒りや悲しみの色は含まず、本当にポロッと無意識に漏れたように聞こえた。

「それで?君も千春とあいつの話は聞かせてくれるんじゃないのか?」

お爺様はオーナーさんに向かって言葉を投げた。
まるで若葉のしたかったことを悟ったかのように。
すると覚悟を決めてくれたのかオーナーさんも何千歩より重い1歩を前に踏み出して、すぅっと遠い目をした。

「私は16の時に悠一さん夫妻に拾われました。今から14、5年前のことです」




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