crocus

琢磨くんは怒りながら上田さんと、上矢さんの方へズンズンと歩いて行った。途端、カウンターでは言い争いが始まったようだ。

「そんな店内で……」

「男の嫉妬って醜いわよね」

「え?」

「ううん、こっちの話。あいつらのケンカなんて日常茶飯事よ。お客さんも周知の事実だし……それにそろそろ終わるわよ」

そのオーナーの言葉に半信半疑の若葉は、もう一度カウンターを見た。

すると桐谷さんがトントンと一人ずつ肩を叩いて、耳元で何かを囁いている。

さっきまでの言い争いが嘘だったかのように、3人ガシっと肩を組んでにこやかにしている。

なんとなく……3人とも顔が青いような。

なんとなく……3人とも背中に触れている肘で相手の肩をグリグリ押しし合っているような。

……ところで桐谷さんは、なんて言ったんだろうか。

結局、この日はメニュー覚えと、軽い接客を琢磨くんのそばで学ばせてもらっただけだった。

その間にも3回ほど上矢さん、上田さん、琢磨くんの乱闘を見ることになった。

そして同じ数だけ、桐谷さんによって鎮められたのだった。いつか桐谷さんの技術を修得したいなと、秘かに憧れてしまった。


< 65 / 499 >

この作品をシェア

pagetop