crocus

正面に見えたベッドにうつ伏せになって、肘で体を支えている琢磨くんは、ヘッドホンをして携帯ゲーム機で遊んでいるようだった。

夢中になっているその横顔に、朝の曇った表情は見受けられない。

安心しながらそっと近づいて体調を尋ねようと声をかけた。

「琢磨くん。…………琢磨くん?」

何度か呼びかけても全く反応がなく、なぜかと思えば、だいぶ音漏れしているヘッドホンの音量のせいだと分かった。

もう一度呼びかけようと、ヘッドホンに手をかけた途端

「なにしやがんだっ!!!」

向けられた敵意の瞳と、激しい怒号に若葉は思わず尻餅をついた。

素早く上半身を起こした琢磨くんに見下ろされる形になり、さらなる怒りを感じ取った。

「あ、あの……ごめっ、ごめっなさ……」

悲しい、怖い、どうして、とさまざまな思いが混ざり合う上に、勝手にカタカタと震えてしまう体のせいで上手く言葉が紡げない。

しかし琢磨くんの様子もおかしかった。怒りの中に怯えが混ざっている。その証拠に顔が真っ青だ。

ただならぬ様子に再び声を出して謝罪した。

「ごめんなさい!朝、様子がおかしかったから……具合が悪いんじゃないかって……、お昼ごはんどうするかなとか、すごく一人が嫌で…………本当にごめんなさい!」

最後の方は脳内に散らばっていた言葉の破片を浮かんだままに連ねてしまって、ひどくおかしなことを言ってしまった。

そのせいか琢磨くんの瞳にふっと色が戻る。

「わ、かば……?」

今までせっかく親しく優しくしてくれた琢磨くんに対して、性懲りもなく震えているどうしようもない体をギュっと両手で抱きしめた。

気づかないで、気づかないで。
琢磨くんは優しいから、きっと悲しむはずだ。

もう一度なるべく口角を上げ、目を細めてから「ごめんなさい」と言い残して部屋を出た。


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