crocus
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誰もいないリビングの大きな窓の前にペタリと座って未だ降り続く雨を見ていたが、気づけばもうお昼ごはんの時間だった。
簡単に用意した昼食を広すぎるテーブルに並べて、椅子に腰掛ける。
「いただきます」
いつもは重なるはずの声が今は一人分。口に運んで、噛み締めても噛み締めても、味気なかった。
本来なら目の前に琢磨くんがいてくれたかもしれないのに……。失敗してしまった。
顎だけはしっかり動かしながらも、若葉の思考は負のスパイラルに絡めとられていく。
もしも……本当に立ち退きになったら?みんなは、私はどうなるのだろう?バラバラになるってどういうことなんだろう……。
一人ってどんな感じだったかな ?
……お爺様はどうしているのかな。
「ぐっ……ごほっ、ごほっごほっ!」
急に蘇った光景に吐き気を覚えて、思わず器官にご飯をつまらせてしまった。
急いでお茶を流し込むとなんとか落ち着いた。
まだ話せていない自分の事情にキリリと胃が痛む。今はまだそれに気づかないふりをしていたかった。
シンクで食べ終わった食器を洗ってから、琢磨くんがお腹を空かせているはずなので、この間好きだと言ってくれた玉子焼きを作ってみた。それを皿に盛り付けて、おにぎりや他のおかずも付け足す。
きっとリビングに降りてくるのを躊躇っているはずだ。
店員さんみんな、知らないことばかりだけど知っていることも確かにある。
琢磨くんは恩や義理を大切にして、真っ直ぐで照れ屋で、とても優しい人。私のために空腹を堪えて降りてこない優しい人だ。
盛り付けた皿をラップで包んで、その上に小さなメモを書いた。
『玉子焼き上手に焼けました。よかったら食べてください』
それを琢磨くんの部屋の扉の前に置いて、自室に戻った。ベッドにトスンと腰掛けるとなんだか胸のつっかえが取れて泣きたくなってしまった。
オーナーさん達の役に立ちたい、私に出来ることはなんだろうか。いや……まず、あるのかすら疑問だ。
……琢磨くんにとっては、マイナスの存在になってしまったかもしれないのに。
自問自答を繰り返していれば、お気楽なもので眠気が襲ってきてしまった。