アイ・ドール
耐えられず、女性に背を向ける川井出。
女性の視線はアリスへと向かう――アリスも応え、視線の対話が続き、二人の間で密約でも成立したのだろうか、「こくり」と同時に小さく頷き合い、勝ち誇った表情で女性は去って行った――。
タイミング良く、自らの惰性で閉まってゆくドア。
ふらふらと力なくソファーに「落ちる」川井出――もう何もかも終わったかの様に目線が泳ぎ、薄ら笑いさえ浮かべている。
多田坂は呟きをやめ、アリスを抱けなかった自分の弱さからか、「あああぁ――」と小さく唸り、宙に目線を置く――。
再び自分の「立ち位置」に戻りながら軽く私にウインクしたアリスは、右肩のストラップだけを直し二人を見下げ、最後の仕上げに入ってゆく――。
「さっきは歯車って言ったけどさ、所詮二人は秩序も情緒もなくしてしまったこの閉塞した世界の犠牲者だよ――生きてく事にため息ついて、明日への希望が見えなくて死んだ様に毎日、気持ちを偽って、嫌な事を誰かのせいにして渇いた心を満たし、絶望という仮面をつけて生きている――」
「――――」
二人は沈黙してうなだれた――。