アイ・ドール
「でもさ、生きてくって事はさ、心を、魂を曇らせたら終わりなんだよ――曇った心と魂は、小さな幸せさえも見逃してしまうんだよ。道端のコンクリートに囲まれた苛酷な環境の中で、小さく綺麗なタンポポが咲いて、懸命に短い命を輝かせている――」
「――――」
「空を見上げれば、美しい夕日や無数の星達が煌めいている――皆、生きているんだよ。数値目標に血眼になったり、擬似恋愛に耽る事が胸を張って生きてるって言えるの――言えないよね――」
「うぐっ――」
「奥さんが体を気遣ってくれる――両親が将来を心配してくれている。それが幸せって事なんだよ――今までわからなかったでしょう。曇るって、そういう事なんだよ。愛を感じ、自分を愛し、周りの人達と分かち合いながら、心を、魂を磨いてゆく事で小さかった幸せが、大きな幸せに育って、暖かい未来が創られてゆくんだよ――」
アリスの言葉に呼応し、「うん、うんっ」と小さく頷く二人――川井出を諦めた店内放送は、軽音楽に戻されている――。
「アリスにだってさ、不安はあるよ――歌とかグループ内での立ち位置、これからの事――」
目線を落とすアリス――。