あの子の好きな子



「・・・先生、正直に言ってね」
「ん?」
「私のこと、うっとおしい?困ってる?」
「・・・だから、久保のことそんな風には思わないよ。でも・・・正直、すごく困ってるよ」

先生は決まり悪そうにそう言った。正直な気持ちなんだろう。私は先生の横顔をぼんやりと眺めた。

「・・・正直、こんなこと初めてなんだ。久保を傷付けたくないけど、どうしていいかわからないし、なんでよりによって僕なんかって思うよ」

チリンチリンと、おじさんが自転車のベルを鳴らして通り過ぎた。夏の夜風が、先生をおしゃべりにさせたんだろうか。それとも自分の住み慣れた街の雰囲気だろうか。先生は今までで一番私と向き合ってくれて、正直な気持ちを話してくれた。

「学校には、同年代の男の子がいくらでもいるだろ?もったいないよ」
「もったいなくなんかないよ」
「なあ、久保。高校生活は、一度しか来ないんだよ。それもあっという間に過ぎて行く」
「知ってるよ、そんなこと」
「久保はきれいだし、明るいし、もてるだろうに」
「・・・な、なんでそんなこと言うの先生」
「本当にそう思うんだよ。どうして、よりによって、って」

みゃーお。今度はのら猫が通り過ぎた。しばらく沈黙が流れたあと、私は先生に言った。

「先生といるのが一番幸せだから。先生の特別になりたいの、それだけだよ」

他の選択肢の多さなんて、青春の短さなんて、関係ない。



< 103 / 197 >

この作品をシェア

pagetop