あの子の好きな子



「なんだ、二人は一緒に帰るのか。仲がいいんだなあ」

先生が何気なく言ったその言葉に、私は動けなくなった。
どうして、そんなこと言うの?私の気持ち知ってるくせに、どうしてそんなこと言うの?先生がいないから、先生が準備室にいてくれないから、こうやって昇降口にいるんじゃないか。
先生が突き放すから、私は―――

「なんですか、それ。先生、からかってんですか?」
「え?違うけど。まあ、気を付けて帰るんだよ」
「はあ」

会長と先生が喋っている。私はせっかく先生にこんな至近距離で会えたというのに、とても話そうという気にならなくて、ただうつむいて先生の足元を見つめていた。なんだか少し、エネルギー切れかもしれない。

「じゃあ、先生さようなら」
「はい、さようなら」
「・・・さようなら、先生」

私はそう言って、もう一度先生の顔を見た。先生はいつもと何も変わらない顔をして、「はいさようなら」と言った。

そのまま学校を出て、とぼとぼと歩いていた。会長と他愛ない会話を交わしながら、私の頭の中は先生のことでいっぱいだった。もう、だめなのかな。このまま、なんとなく疎遠になって、次第に準備室に行くこともなくなって、いつの間にか卒業して。先生は私の頭の中から消えて、卒業アルバムの中でだけ、存在する人になっていくのかな。あんなに胸が苦しくなった。好きで好きであんなに胸が苦しくなった人なのに。私はすっぱりとふられることすらなく、ただ先生が先生であるという壁の前に倒れてしまうのか。

「久保ってば」
「えっ」
「大丈夫?疲れてんの?」
「あ、ううん。大丈夫。ごめん、なんだっけ」

無理やり笑って会長を見た。ああ、私の好きな人が会長だったら。私が胸を苦しくさせる人が会長だったら。自体はもう少し簡単になるのかなあ。

「だからさ。これから、ずっと一緒に帰らないか」
「・・・ん?ずっと?」
「俺と久保、部活の活動日も一緒だろ。丁度いいし、いつも一緒に帰らない?」


< 116 / 197 >

この作品をシェア

pagetop