あの子の好きな子



「迷惑なんかじゃ、ないんだけど・・・」

申し訳なさそうにする会長を見て、私が申し訳なくなった。なんだか胸が苦しい。胸が、ドキドキしているんだとわかる。会長が黙ってしまったので、また横目でちらりとだけ会長の方を見ると目が合った。何も話さないまま目をそらした。なんなんだろう、このやけに甘酸っぱい雰囲気は。

「あの・・・」

少しして会長が口を開いた。何を言われるのかと思って、また胸がドキドキし始めた。

「もみじ祭り・・・行かないか」
「えっ?」

出てきた言葉に拍子抜けした。
もみじ祭り?急に?
もみじ祭りと言えば、近くの広場で毎年やっている小規模なお祭り。もみじ狩りというわけでもなく、もみじという名がついたのはただ季節が合っているから。秋の終わりにやる、盆踊りのない夏祭りのようなものだった。学校から歩いて行ける場所にあるから、ここの学生で賑わっている。私はここが地元だから、昔から慣れ親しんだお祭りでもある。

「もみじ祭り?どうして?」
「いや、近くでやるし、もうすぐだし・・・だめかな」
「え、ううん・・・いいけど・・・いいの?部活のみんなと行ったりしなくて」

会長はこっくりと頷いた。結局、下駄箱から教室までの会長との時間は、もみじ祭りの約束をして終わった。会長のことはずっと心の端につっかかっていたけど、なんだかもやもやを大きくしてしまった気分だ。男友達とお祭りに出掛けたっていいけれど、会長との間にできるあの微妙な雰囲気に、私は静かに怯えていた。


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