あの子の好きな子


メールをしよう。
そう思って、気が付いた。私、広瀬くんの連絡先をひとつも知らない。広瀬くんの隣の席になって、他愛ない会話をするようになって1か月。毎日毎日広瀬くんのこと考えて、この間なんか広瀬くんにドキドキして動悸息切れまで起こしたくらい広瀬くんのことを意識しているのに、連絡先のひとつも知らない。

どうして今までメールがしたいとかそういう発想に辿り着かなかったんだろう。家に帰れば今日の広瀬くんを思い出して、明日は何を話そうかと考えていたのに。このご時世、メールという手段をまるっきり意識していなかった自分が恐ろしかった。

「誰か・・・広瀬くんの、連絡先・・・」

誰が知っているんだろう。時々広瀬くんと話している、あそこの男子A、男子Bたちは知っているだろうか?連絡先ぐらい知っている可能性は大いにある、でも聞くのが恥ずかしい。私は広瀬くんの隣の席だし、よく話す唯一の女生徒であるわけだし、この間は二人でお花作りをしていたし、なんだか一部のクラスメイトから好奇の目を向けられている気がする。広瀬くんの連絡先教えてなんて恥ずかしくて言えない。

「・・・あっ!先生!篠田先生!ちょっと待って!」

名案がひらめいた。こういう時アイディアが思いつくと、いくらテストで赤点をとっていても自分の脳みそを誉めたくなる。

「あの、なにか、届けた方がいい配布物とかありませんか?広瀬くんに!」
「え・・・いや今日は見ての通り学園祭だし、特に・・・」
「じゃあ、学園祭のパンフレット届けましょう!」
「別に今度でいいんじゃないのかなあ。それに、森崎は家遠いだろうに」
「私じゃないんです!お願いする人、いるので!じゃあパンフレット、届けておきます!」

篠田先生は不思議そうにああうんと言った。あの人に話しかける口実ができた。そしたら話の流れでなんとなく、広瀬くんの連絡先が聞けるかもしれない。



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