あの子の好きな子
2年E組の出し物は、ドーナツ屋さんだった。女子が強いクラスなのか、内装もとてもかわいらしくて、ピンクのエプロンをつけた女子たちが元気に接客をしていた。私は、去年同じクラスだったカヨちゃんを手招きで呼んだ。
「あの、久保さんって、いる?」
「うんいるよ!今シフト入ってるよ。呼ぶの?」
カヨちゃんがよく通る大きな声で久保さんを呼ぶと、奥からきれいな女の子が走って来た。顔と名前は一方的に知っているけど、話すのは初めてなので緊張する。
「久保です」
髪が黒くて、長くて、サラサラで、落ち着いた大人っぽい雰囲気の女の子だった。目がぱっちりしてて口が小さい。いまいちパっとしない私の容姿とは正反対で、華があって上品な感じがする。こんな風に生まれてきたら、人生もう少し楽しかったかな、とつい考えてしまう。
「・・・あ、もしかして去年A組だった?」
「は、はい、体育一緒だった・・・」
「そうだよね、見たことある。どうしたの?」
久保さんはにこっと笑った。なんだか、2つか3つ年上の人と話している気分。
「あの、私、C組の森崎あゆみです」
「C組?・・・篠田先生の?」
「あ、うん。それであの、えっと、広瀬くんのことで」
「ああ、雄也。そっか篠田先生のクラスだったね」
久保さんは手をぱちんと叩いて嬉しそうにした。私はその「雄也」という響きに一瞬どきっとした。この学校の中で、広瀬くんをそう呼ぶ人はいないから。そういえば広瀬くんは、雄也というんだった。
「今日、お休みしてるんだけど・・・」
「あ、うん。風邪ひいちゃったみたい。37度くらいだったかな」
「え・・・」
久保さんが、広瀬くんが体調を崩していること、それだけじゃなくて熱が何度あるのかまで知っていて驚いた。私が思っていた以上に、二人は仲がいいのかもしれない。