あの子の好きな子


「・・・・・・あの・・・先生」

先生が何も言ってくれなくなって、沈黙を埋めなければと思って声を出した。先生との沈黙はいつも心地いいけど、なんだか今の沈黙は息苦しい。恋は追えば逃げるのよ、という誰かの言葉を思い出した。追えば逃げる、引けば寄ってくる。だけど仕方ないじゃない、私が引いたら先生は寄ってなんかこない。私が追い続けないとこの恋は終わる。駆け引きなんて段階じゃない。

「・・・ああ、ごめん。それじゃ・・・お茶でも飲む?」

やっと声を出した先生は、はっと気が付いたような素振りを見せた。単に、ぼーっとしていたのだろうか。先生はいつもの湯のみにいつものほうじ茶を用意した。放課後いつもそうしてたみたいに、先生の向かいのパイプ椅子に座って、熱いお茶を飲む。先生はお茶を一口飲むとふうっとため息をついて、大きなクリップでとめられた分厚い資料の束をめくった。

「どう、冬休みは」

困惑とも嫌悪ともわからない先生の沈黙が気になっていたけど、また先生から話しかけてくれて幾分ほっとした。それから、クリスマスパーティーの話や、年越しの話、おばあちゃんの家での話、どうでもいい私の冬休みの話を聞いてくれた。先生は、忘年会に出たり、実家に帰ったり、知り合いの人に頼まれて猫を預かっていたりしたらしい。私が話したら、先生はあの笑顔で「そうかあ」と言ってくれて、私がなにか聞いたら、のんびりと、少し恥ずかしそうに自分の話をしてくれる。

何度不安になっても、この場所で先生と話すだけでやっぱり先生が好きだと気付かされる。落胆しても、やけになっても、結局同じだよ。何度同じことを繰り返しても、私は先生のところに戻ってきてしまうよ。早くこの場所から、連れ出して欲しい。堂々巡りをやめて一歩先へ、踏み出したいよ先生。


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