あの子の好きな子


「年賀状、届いたよ。ありがとう」

先生が言った。はがきを裏返すと、もの凄く渋い干支の絵のプリントの下に、3行ぽっち、手書きのメッセージが書かれていた。あけましておめでとう。今年もがんばろう。寒くなってきたから、風邪をひかないように。たったそれだけだけど、この3行を書く間、宛て名を書く間、先生の指は、先生の瞳は、私のものだったのだ。その一瞬だけは、私だけの、特別な先生だったんだ―――

「ありがとう・・・ございます」

毎日、白い息を吐きながらポストを覗いては、先生の名前が書かれた年賀状がないことに落胆していた。返事なんてくれないかもしれない。そう諦めていたから、そのはがき一枚に涙が出そうになった。息が切れるくらい嬉しくなったり、泣いてしまいそうなくらい嬉しくなったり、先生が指をひとつ動かすだけで私は馬鹿みたいに感情が高ぶってしまう。

「それで・・・久保は?」
「え?」
「なにか、用事?」

・・・かと思えば、こんな風に私を突き落とす。確かに、わけもなくここへ来ていいわけは私にはない。いきなりガラガラとシャッターを降ろされて少し悲しかったけど、もうへこたれないって決めた。私はますます、図太くたくましくなっていた。

「別に、ないですけど・・・先生来てるかなって思って」
「・・・・・・」

素直にそう言ってみたら、先生は黙ってしまった。何やら書類の整理を続けている。何を考えているんだろう。またか困ったなとか、コイツしつこいなとか、いい加減疲れたとか・・・。

< 153 / 197 >

この作品をシェア

pagetop