あの子の好きな子


毎朝、この階段がなければいいのにと思っていた。だけど今、先生と並んで1段1段上りながら、この階段がずっとずっと続けばいいと思った。

「久保は最近、忙しそうだなあ」
「えっ?あ・・・、はい、なんかあの・・・兼部してて」

私が近頃少し忙しいことを、先生から言ってくれるとは思わなかった。あれだけしつこく準備室に通っていたから、いきなり姿が見えなくなったことに気付くのは当然かもしれないけど、そのことを話題には出さないと思った。先生は私がいなくなってほっとしているはずだから。

「兼部?」
「兼部っていうか、お手伝いです。軟式野球部の」
「ああ、だからよく軟野と一緒に帰ってるのか」
「・・・・・・あ、はい・・・」

私は先生をぼんやりと見上げた。そんなこと、気付いていたんだ。確かに野球部終わりに何度か先生を見かけて挨拶だけしたことはあった。でも先生は基本的に他人のことを何にも気にしていなさそうというか、私がどの集団と一緒にいるかなんていちいち気付いていないと思っていた。なんだろう、今日の先生はなんだか不思議な感じがする。

「それじゃあ、結構大変だなあ」
「うーん、まあ・・・でもなんか、男の子の集団に一人入るのにも慣れちゃいました」
「はは、そうか、たくましいな」
「でも、だから・・・今回の期末、ちょっとまずいかも」

子供っぽく笑ってみせたら先生も笑ってくれた。ああ、先生の笑顔ひとつで私はいきなり幸せ者になれる。そのことをしみじみと実感していたら、先生は爆弾を落っことした。

「なら準備室においで。また、補修しないとなあ」


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