あの子の好きな子

特別

いつから健人に対して特別な感情を持つようになったんだろう。健人とは小学校から一緒だったけど、6年間で健人との思い出はこれといって無い。健人は学校を休みがちな時が多くて、少し特殊な生徒だったように思う。健人のママはとても若くて、独特な教育方針だったのか、健人が欠席が多いのも、まああの母親だからねえ、なんてよく言われていた。

健人との距離がぐんと縮まったのは中学に入ってからだ。中学生時代のことを思い出すのは、なんだか小さな子供だった頃を思い返すように遠い感じがする。ほんの少し前のことなのに。

「加奈」

健人がそう呼ぶ。中学校に上がって最初のクラス、出席番号が近かったから私は健人の斜め後ろの席だった。健人の席は四方を初対面の子に囲まれていたから、意外と人見知りをする健人は、なにかと斜め後ろの私に話しかけた。そこまで仲が良いわけでもなかったのに、まるで幼馴染みたいに。

「加奈、次なんの授業?」
「数学だよ。時間割なくしたの?」
「んー、どっかいったかも」
「じゃ、私の字でよければ写してあげるよ。あ、それよりコピーとればいっか」
「いーよ。加奈に聞くから」
「えー。体育着とか忘れるじゃん、それじゃ」

健人はいたずらっぽく笑った。かわいい顔をしてるので、きっとこれからもてるんじゃないかな、と私はおもった。根が人懐こい健人は、しばらくするとクラスにも慣れて、すっかり皆と仲良くなっていた。それでも健人は、ノート貸してとか下敷き貸してとか、何かというと私に頼って来た。




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