あの子の好きな子



それから、ただの仲の良いクラスメイトとして、健人を特別視することなく時間が過ぎていった。何度か、付き合ってるの?と聞かれることがあったけど、違うよ、健人は誰にでもああだよ、といつも答えた。子猫みたいなやんちゃな男子生徒、ただそれだけの存在だった。

覚えているのは、1年生の冬休み前。掃除の時間だった。昇降口の掃除をしているとき、健人の噂話を耳にした。

「1こ上の先輩と付き合ってるんだって」

へえそうなんだ、と思った。中学生はこの手の話が大好きだから、掃除中はこの話題でもちきりになった。しょっちゅう会話しているのに教えてくれないなんて、水くさいなと思っていた。

そのまま、健人と付き合っていると噂の“ミサキ先輩”を見に行ったら、派手な感じの先輩だったのでぎょっとした。制服のスカートを切って、規定より短くしている先輩で、手首にはめたショッキングピンクのシュシュがやけに目立っていた。健人のタイプには思えなかったけど、年上の女の人と付き合うというのは妙に健人に合っていると思った。まあ、健人の好みのタイプなんて、知らないけど・・・。

「健人、クリスマスは彼女さんとか、いいなー」
「んじゃ、加奈も彼氏作って、ダブルデートしよ」
「えー、無理だよ」

なんとなく探りを入れてみたつもりだったけど、どうやら本当のようだった。その後、何度か二人が一緒に帰っているところも目撃した。

誰にでも明るく接する健人は、彼女の前ではどんな風になるんだろう。どんな特別な顔になるんだろう。それがやけに気になった。



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