あの子の好きな子
健人は、人のことをよく見ている。はじめは、周りのことなんて気にしない無邪気な印象を受けるけど、本当は他人の言動に敏感だ。日常の小さな出来事から、そういうところは感じてとれた。
特にそれを実感したのは、冬休みが明けて少したったあの日。昔から飼っていた猫がゆうべ死んでしまって、私はかなり落ち込んでいた。だけど学校を休む理由にはできないし、合唱コンクールを前に毎日練習の続いていたあの頃、気分が優れないからなんて理由で休んだり帰ったりできない雰囲気があった。今思うと、当時のクラスはなんで合唱コンクールにあんなに熱心になっていたんだろう。
「通してもう一回やろう」
誰かが言った。合唱の練習も大事だけれど、その時の私はとてもそんな気分になれなかった。昨日の夜、息をひきとったばかり。まだちゃんと、さようならもできていない。早く帰って、もう一度触れてあげたかった。
「ねえ、ちゃんとやろうよ」
また、誰かが言った。自分が注意されたのかと思ってどきりとする。用事があるから、具合が悪いから、そう言って帰ってしまおうかと考えていたのに、とても言い出せる雰囲気じゃない。
悲しさと焦りが混じり合ったような気分で、本当に具合が悪くなってしまいそう。