あの子の好きな子



「私、広瀬くんに、興味があるの!」

その時、広瀬くんと、周りで聞いていた何人かが、くっと眉をひそめて不審そうな表情を浮かべた。特に広瀬くんは、不思議がっているどころではなく、少々気味悪がっているような感じがした。

「ごめん・・・ごめん、変なこと言って・・・ごめん」
「お前さ」
「はい」
「やっぱり、おかしいよ、お前」
「はいすみません」

広瀬くんは頬杖ついて私を眺めた。その眠そうな目元、くせっ毛、意外と赤ちゃんみたいな唇、骨っぽい大きな手、低めの声、すべてに私はなんとなく惹かれてしまう。ただなんとなく気にかかる。理屈じゃないんだぜ、とはよく言ったものだ。

「ごめん、気持ち悪いこと言って、忘れてください」
「いや気持ち悪くて忘れられないよ」
「ひえ、ごめん」
「でも、お前の名前は忘れた。なんだっけ」
「え!森崎だよ、森崎あゆみです」
「あゆみか」

どきんとしてしまった。私は今まで男の子には森崎と呼ばれることが多くて、この低い声であゆみと呼ばれることが少なかったからかもしれない。それかやっぱり私はもう完全に、広瀬くんのことを意識しているからかもしれない。

「あの・・・気持ち悪がらないで、聞いてくれる?」
「なんだよ」
「いや、あの。以上なんだけど」
「は?」
「だからその、あ・・・明日からも、気持ち悪がらないで、天気の話、聞いてくれる?」
「ああ、なんだ」
「ごめん・・・図々しくて」
「別にいいけどさ」

その時、広瀬くんがふっと息を漏らして笑った。あの広瀬くんが笑った。横からしか見えないけど笑顔が最高にかわいい。どうしよう。あゆみと言われたときからの心臓のドクドクが、止まるどころか加速している。どうしよう。

全身の脈が踊っている感覚を味わっていると、広瀬くんが笑ったまま私の方を見て言った。

「天気の話以外にしろよ」

その笑顔が眩しくて、眩しくて、
天気の話以外の話をできるのが嬉しくて、嬉しくて、
私は認めざるを得なくなる。
私は広瀬くんを特別な意味で意識しているんだ。


明日から、何の話をしよう。


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