あの子の好きな子



「広瀬くんおはよう!」

広瀬くんとの仲が一歩前進できたその次の日、私は浮かれに浮かれて広瀬くんに早口で挨拶をした。広瀬くんは、いつもどおり愛想のかけらもなくああとか呟いただけだったけど、それでも昨日よりは仲良くなれた実感でいっぱいだった。

「今日冷えるね、やっぱり雨降るとぐんと冷えるね」
「・・・・・・」
「広瀬くん?」
「天気以外の話じゃなかったのかよ」
「あっそうだった!ごめん!えっとそれじゃ、えーと」

何を話そうか決めてこないまま教室まで来てしまったことを後悔した。なんでもいいのに、気のきいた話題が思いつかなくて、うんうん唸っていた。すると広瀬くんが、私を見ると鼻で笑った。

「えっ、なに!?」
「いや。そうだったごめんって。真剣に考えるなよ」
「え?あ、ごめん」
「とりあえず謝ってるだろ」

広瀬くんって、こんなに笑うんだ。だいたいは人を小馬鹿にしたような笑い方だけど、たまに無邪気に笑う顔が、やっぱりすごくかわいい。かわいいなんて言ったら、怒るかな。怒るだろうな。

「じゃあ、あのね、色々聞きたいこと、ある」
「なんだよ、晴れ曇り雨どれが好きかとか?」
「あっ、それも聞きたい」
「聞きたいのかよ」

また笑った。あの仏頂面の、近寄りがたい広瀬くんは一体誰だったのか。私がちゃんと知らなかっただけで、みんなが知らないだけで、きっと広瀬くんはずっと広瀬くんなんだ。ずっと前からこんな風に笑って、こんな風に憎まれ口を叩く人なんだ。私、広瀬くんに話しかけてよかった。広瀬くんの隣の席になれてよかった。






< 4 / 197 >

この作品をシェア

pagetop