あの子の好きな子



「今日は、空が灰色だね」

広瀬くんが戻ってきてから、私は前みたいに天気の話をした。今日は一面が曇り空で、教室には日差しが届かない。でも私は天気の中で曇りが一番好きだから、その灰色にやけにほっとしていた。

「ねえ、広瀬くんの一番好きな天気ってなに」

いつもとどこも変わらない様子で席についた広瀬くんは、また質問かとうんざりした表情をした。私の質問攻めに慣れてきた広瀬くんも、週の初めの月曜日にはこういう顔をよくする。そして金曜日には、もう諦めたのかすらすら答えてくれることが多い。

「別に、好きも嫌いもねーよ」
「でもさ、晴れの日は気分がいいとか、雨降るとワクワクするとか、あるでしょ?」
「別に・・・しいて言えば降りそうで降らない感じ」

今にも泣き出しそうに潤んでいるけど、あと少しのところで泣き出さない空。私の気分にすごくよく似ていた。

「わかるよ・・・」

どんより厚い雲が空をすっぽり覆ってくれる今日みたいな天気が、私も好きだ。広瀬くんと好きな天気が一緒なことが単純にうれしいと思った。

広瀬くんが私に久保さんのことを教えてくれたのは、もしかしたらもっとシンプルに、仲良くなれたからかもしれない。人に触れてほしくないことを私に教えてくれた広瀬くんは、私のことを仲のいい友達として、話しやすい友達として思ってくれているのかもしれない。ただ距離が縮まったから、ただほんの少し前より仲良くなれたから、広瀬くんは心の内を打ち明けてくれただけなんじゃないだろうか。

だったら私にとってこれはいいことだ。広瀬くんと前よりずっと仲良くなれた。きっと絶対に誰も知らない広瀬くんの秘密を教えてもらえた。今日はすごく、スペシャルでミラクルな1日だったんじゃないだろうか?

「次・・・篠田先生かあ・・・、寝そうだなあ・・・」

机にころんとうつぶせになった。ほっぺが当たった机が冷たくて気持ちよかった。広瀬くんも片想い、私も片想い、おんなじだ。今日はとってもいい日だったんだと自分に言い聞かせていたら急に切なくなって、広瀬くんとは反対の方を向いたままこっそり泣いた。



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