あの子の好きな子



自転車置き場に行って、広瀬くんのシルバーの自転車の前まで来た。いつもここで自転車の鍵を探す広瀬くんを遠くから見ていた。いつかこんな風に、一緒に自転車を取りに来て、隣を歩いて帰りたいって思ってた。思い描いていた理想は、もちろん彼女としてだけど、私には今のこの状況が充分すぎるくらい幸せだった。

「広瀬くんの自転車、すごい音するね」
「さびてるからな」
「買い替えないの?」
「乗れればいいんだよ」

いつも自転車に乗ってあっという間に帰って行ってしまう広瀬くんが、今日は自転車を転がして歩いている。私がいるから、歩いてくれる。ブレザーだけじゃ肌寒くなった秋の終わりの風が吹いて、少し寒かった。でも頬っぺただけは熱かったから、冷たい風が気持ちいい。

「ねえ広瀬くん」
「なに」

短い時間をたっぷり味わいたくて、教室以外の場所で話せるのが嬉しくて、もったいないからいつも何か話そうとした。話題も思いつかないのに広瀬くんの名前を呼んで、なんでもないと言っては怒られた。

「あ、そうだ。広瀬くんって、土日もバイト?」
「いや、バイトは平日の夜だけ」
「じゃあ、土日はいつも何してるの?」
「特にこれといって。たまに出かけるくらい」

広瀬くんに聞きたいことリストの項目を1つ思い出したので聞いてみた。バイト先の場所はまだまだ教えてくれそうにない。平日のシフトも決まってはいないみたいで、月水金だった週もあれば火水木だった週もある。

「出かけるってどんなとこ?」
「・・・本当にたまに」
「うん、どこ?」
「・・・なんとか展って、よくやってるだろ。仏教展とか。ああいうのが好きなんだよ。博物館とか」

少し決まり悪そうにそう話す広瀬くんを見て、私は口をぱくぱくさせた。広瀬くんにそんな趣味があったことが意外で、可笑しくて、恥ずかしそうなのがかわいくて、教えてくれたのが嬉しくて、何を言ったらいいかわからなかったから。

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