あの子の好きな子
「じゃあな」
「あっ、ま、待って広瀬くん!」
「今度は何だよ」
広瀬くんって、よくよく考えると罪な奴だ。私のどストレートな愛情表現を「変な奴」の一言でさらりとかわして知らんぷり。そのくせ、私を最高に舞い上がらせる一言を投下したりする。よくよく考えれば、罪な奴だ。
「・・・空海、本当に行ってくれる?」
「こっちの台詞だよ。お前本当に行く気あんの?」
「行くよ・・・行こうね」
「いいけど。・・・じゃあな」
「あっ、待って広瀬くん!」
広瀬くんは、あからさまにまたかという顔をした。私も気分が高ぶって、乾燥してカサカサになった唇を必死で動かした。
「私も、広瀬くんといると落ち着く!緊張もするけど、落ち着くよ!」
さっき伝えたかったことを、やっと伝えられた。広瀬くんといるとたまにドキドキしてズキズキして泣きたくなったりすることあるけど、いつも広瀬くんの隣の席は居心地がいい。だから広瀬くんも同じ気持ちだったってわかったことが嬉しかったんだよ。
「・・・わかったよ。以上?」
「以上です!」
「じゃあな」
広瀬くんは、相変わらず素っ気なくそれだけ言うと、キイキイ鳴らして帰って行った。その姿が見えなくなるまで見送って、私も駅までの道を急ぐ。スキップしそうな足をおさえながら、幸せな帰り道をじっくりと味わったのだ。