あの子の好きな子



「あっそうだ、言うことあった」
「なに」
「私、お父さんがなんとか組合員になっててね、空海展の入場券安く買えるよ。私、買っとこうか?」
「・・・ああ、いらない、もうあるから。新聞屋にもらったんだよ、無料券2枚」
「あ・・・、そうなんだ、私それ使っていいの?」
「いいよどうせいつも余るから」

いつも余る。新聞屋さんは、よくそういった類のチケットをくれるんだろうか。広瀬くんは、いつも一人で行っているんだろうか。広瀬くんは一人でのんびり楽しむのが好きそうではあるけど、どうせ券があるんだったら、久保さんを誘ってもいいのに。一緒に行ったこと、あるのかな。

「・・・・・・ねえ本当に私が使っていいの?」
「なんだよ?いいって」

広瀬くんは、最初から自分の片想いを諦めている。もしかしたら諦めていなかった時期もあったのかもしれないけど、少なくとも今は完全に何かしようという気はないみたい。やっぱり、今現在も、久保さんには付き合っている誰かがいるんだろう。この学校の人なんだろうか。噂は聞いたことがないけど。カヨちゃんに聞いてみちゃおうかな・・・。

「・・・広瀬くん」
「なに」
「・・・風邪、ひかないようにね」

広瀬くんにはなんとなく聞けないから、体調管理の念を押しておいた。もう、学園祭の日のようながっかりなオチは嫌だ。どんなに寝坊してもどんなに適当な服装でもいいから、とにかく元気で約束の場所にちゃんと来て欲しい。肝心の広瀬くんは、学園祭の日に私と約束していたことも、風邪で休んだことも、すっかり忘れたような顔してるのがちょっとだけ憎らしい。

「絶対、ひかないでね」
「わかったって、妙にこだわるな」
「健康第一だからね」

その話をしていて、私は広瀬くんのために持ってきたものがあることに気が付いた。体調を整えるために、自販機でホットレモネードを買ってきていたのだ。それを自信満々に広瀬くんにつき付けると、「レモネードは嫌い」とばっさり言われた。


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