あの子の好きな子



「・・・どうして、だめなんですか。私、中学生の時、顧問の先生のおうちにみんなで遊びに行ったことありますよ・・・」
「それとは、話が違うよ、いろいろ。今はそういうの、厳しいんだよ」
「なんか、そんなのって、ずるい」

減らず口の私に、先生は一息ついて話し始めた。その口調は、まさにセンセイの説教だった。

「久保」
「はい」
「先生は、一生懸命な久保を偉いと思うよ。でも、久保だけ特別視することはできないよ」
「・・・・・・」
「質問をすれば返すし、勉強のことでわからないことがあればわかるまで何でも教える。学校生活の悩みも、相談も、できる範囲で乗る。でも久保を特別扱いすることは、できないんだよ」

突き放された。強引に歩幅をつめて、近寄ろうとしたところに、両手でどんと突き放された気分だった。よろめいた私は、ただその場に立ち尽くして、向こう側にいる先生のところまで飛んで行くことができなくて、うつむいた。私と先生のいる場所の間にある、大きな大きな溝をじっと見つめた。ここを越えることはできない。いっそ、この深い深い溝に、先生と一緒に落ちてしまいたかった。

ああ、遠いんだな。
私はその距離を思い知らされたけど、それと同時に、絶対にへこたれてなんかやるもんかと思った。
やっぱり私は昔から、頑固だ。



「雄也ってさ、昔から理科得意だったよね?今も得意?」
「は?」

昇降口で、ほうきを持った雄也に会った。どうやら掃除当番らしい。雄也は面倒臭がりな割に根が真面目だから掃除をさぼらない。

「今度のテストで、どうしても理科総合で100点とりたいの」
「・・・なんでまた」
「内緒」
「なんだよ、それ」

ごほうびの内容は決まらなったけど、くれるとは言ったんだ。とにかく私は百点満点をとるしかないと思って躍起になっていた。


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