煙草屋の角
短編読み切りです。
 煙草屋って、なんで決まって角にあるんだろう。四丁目の角にも煙草屋がある。木造二階建の小ぢんまりとした建物で、高層ビルに挟まれアスファルトと大理石でできた街の中、『たばこ』と白抜きされた赤い看板が目立つ。その古さときたら映画のセットであるかのような、いや寧ろ一人娘のキィちゃんが昭和のキネマ女優のようで。
「どうかしました?」
「あ。いや。別に」
 煙草屋とは言ってもパンに牛乳、いつ入荷したのか分からない洗剤とか。それは何しろ僕がこの街で働き始めた頃から、ずっと置いてあったような気がする。
「ゴロワーズひとつ」
「はーい、ありがとうございまーす」
 歳の頃は二十代半ばといったところだろうか。全く化粧をせず、そばかすもそのまま。それでも近所で働くサラリーマンたちの間では意外と人気が高かった。ハイヒールの音高らかに、口紅とマスカラで武装したOLたちに囲まれて仕事していると、それがかえって新鮮に思えるのだろうか。しかし母親のモンペを履いて出て来た時は、さすがに皆を仰け反らせた。
「暑いね」
「ほんと、暑いですね」
 気温は年々上がる一方。すでに骨董品とも言える扇風機は窓口に座りきりのオバチャンが独占しており、娘のキィちゃんの白い額には汗の粒がたくさん吹き出ている。
「相変わらず暇そうだね」
「ええ、暇なんです」
 襟足を掻く僕。話が続かない。
「コーヒー牛乳もらうよー」
「あ、はーい」
 僕と同じようなサラリーマンが割って入ると、彼女は僕に向ける笑顔と同じ笑顔で接客する。
「お金ここに置いとくね」
 言い残し僕は、三百円を置いて去った。
 仕事帰り、夕方になって急に崩れだした空模様。西の空は明るいのに頭の上は鼠色。と、上を向いていたらポツリ、ポツリ。
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