夫婦ごっこ
まだ…忘れられない……。

失ってから気づいたどんなに愛してたか……。


淡々と話したけど 恒くんの心の中は真剣だと思った。


「結婚なんてしなかったらよかったのに……?」


「社会的にそういうわけにはいかないんだよ。
断れない縁談の話しも出てきて 窮屈な生活したくなかった。
紅波が引き受けてくれるとは 思ってなかったけど
あの時 重役から縁談の話があってさ
付き合ってる人がいるって嘘ついたんだ。
ちょっと急いでた…。」

「でも重役の紹介なら…もっと出世できたんじゃない?」

「そういうので出世なんかしたくないよ。
だいたい仕事できないのに上にいたってさ
使えないし 現にいるしそういう上司……。
俺は俺の力を認めてほしい。これからもそう……。」


「大変なのね……。」」

「大変なんだよ。俺にとって紅波は恩人ってとこかな。
おまえとの生活は本当に居心地がいい。
入りこんでほしくないところには おまえは入らない。
だけど夫婦してたらたとえ俺が愛してなくたって
夫婦らしいことしないといけないし…
セックスしたり子どもができたり……
縛りつけられたり家事を手伝わされたり……うんざり…。」


複雑な気持ちだった。


「私一生 処女なのかな。」
思わず口にしてしまった。


「え?」恒くんが振り返って私を見た。
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