まだ、君を愛してる.doc
10
愛花は帰って来ない。かと言って、僕と愛花は離婚したわけでもない。微妙な距離、時にはそれが愛花のありがたみを感じさせたり、時には怒りにも似た感情を抱かせたりする。揺れる気持ち。ただ、僕は中途半端なのは苦手だ。愛花が戻ってくるなら、きっと何事もなかったように、今までの事には触れずに、この先も生きていきたい。逆に離婚したいとなるなら、それはそれで受け入れる覚悟はある。本当は怖い。けれども、そんな選択をすると言うのは、それ相当の覚悟がいるし、そうなったなら彼女は僕の事など、完全に必要としないだろう。
夕食の後、蛍光灯を見る。光が滲んでいる。いや、滲んでいるのは僕の視界だ。涙をいつの間にかこぼしていた。
「愛花・・・」
呟く。自分の声が聞こえると、さらに涙は溢れてくる。どうしたらいい?問いかけても答えてくれるものなど、いるはずもない。
「・・・何、やってんだろ・・・」
自分の求めているもの、それは何なのだろう。見いだせない。
ため息ばかりの日常、それから抜け出したいのに、どうやっても抜け出せない。
「やり直せる?」
携帯を手に取った。
今なら、まだメールを送れば許し合える。そう思えた。
一文字、一文字、紡ぎながら打つメール。打っては消し、打っては消しと繰り返し、なかなか先に進まない。
“もう一度だけ話をしたい”
たった、これだけを打つだけなのに、どれほど時間が掛かるのだ。何かに押し返される感情。このまま嫌いになれれば、どんなに楽だろう。嫌いになれないから、感情はやせ細っていく。
“送信”ボタンに指が届きそうな時、一通のメールが届いた。
< 73 / 89 >

この作品をシェア

pagetop