まだ、君を愛してる.doc
「はいよ。でも、帰りはどうするんだい?」
人気がないだけに、タクシーを下りたら次のタクシーは望めない。
「わからないけど、いいです。なんとかします。」
「そんな事だろうと思った。ほれ。」
運転手は自分の名刺を渡してくれた。
「電話したら迎えに来るよ。だから、がんばんなよ。」
「あ、はい。ありがとうございます!」
軽く会釈をして礼を告げると、新島さんは急いでさっきの場所に戻った。すると、まだ車庫入れをしている。何回も切り返し必死だ。どうやら、相当に運転が下手らしい。わざわざ走ってくるまでもなかった。
「あぁ、じれったい。」
五分待っているが、まだ車庫入れが終わらない。おかげで用意しておいた一眼レフカメラも、きっちり望遠レンズまでつけられた。
「準備終わったから、早くして。」
ドアを閉じる音が二回した。どうやらやっと停められたらしい。
「やっぱ、男は運転がうまい方がいいな。」
独り言と同時にカメラを構える。望遠レンズを使うと、肉眼では豆粒のような顔もはっきりと誰かわかる。
小気味良いシャッター音。至近距離なら問題になる音も、さすがに距離があれば気にするまでもない。遠慮せず、どんどんシャッターを切る。
そして、愛花と柏はラブホに消えた。
ここでカメラの液晶で撮ったものを確認する。ばっちりだ。二人がラブホに消える様が、恥ずかしいくらいに映し出されている。
「これを見せてあげなきゃ・・・」
有給を何日も費やした結果、これは大きな収穫だった。
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